映画鑑賞日誌 『散歩する侵略者』(黒沢清監督)をおすすめする
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冒頭数分で観る者を圧倒する恒松祐里
前作の『クリーピー』がいまいち好きではなかったが、本作は好きだ。
冒頭の数分で、圧倒される。たった数分で、これはすごいことになるぞと期待させることはなかなかない。
宇宙人に乗っ取られた女子高生役の恒松祐里がすごい。身体能力や身体の操り能力が秀でている。アクションシーンもすばらしいし、女子高生でありながら中身は宇宙人というキャラクターを、絶妙な不自然な所作で演じている。
黒沢清は新人を発掘するのがうまい監督で、黒沢作品をきっかけにブレイクした俳優は多い。最近だと『トウキョウソナタ』の井之脇海。『クリーピー』の藤野涼子は朝ドラ『ひょっこ』に出演。そう言えば井之脇海も『ひよっこ』に出演していました。
恒松祐里もきっとここからさらに飛躍する女優になるでしょう。
エキストラの使い方
今回気になったのはエキストラの使い方。今回も、と言ったほうがいいだろう。
前前作『クリーピー』でもっとも驚いたのがエキストラの演出。研究室で西島秀俊らが話し合っているシーン。ガラス張りの研究室の向こうに多数の大学生と思わしきエキストラがウジャウジャと集まってくる。エキストラたちは何気ない感じでおしゃべりをしているわけだが、ウジャウジャと集まってくる感じや場所の設定に対して明らかに多い人数など、背景でありながら明らかに不自然な演出だった。それが物語の不穏さを醸し出していた。
驚いたのはその演出の大胆さもそうだが、そもそも黒沢作品ではあまりエキストラが使われないのにこの多さはなんだということです。
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テレビドラマでよくあるが、その場の自然さを演出するために、背景のとしてエキストラがよく使われている。黒沢清はその作られた自然さが好きではないんだと思う。登場人物以外、無人というシーンが多い。出てきても、この人達ってもしかして幽霊かも、みたいに思わせる。
黒沢清のエキストラの使い方は、かなり特殊だと言っていいと思う。他にこんなことをする監督を私は知らない。
『散歩する侵略者』では、冒頭にそれが見れて「おお」と思った。
襲われる郊外の家の付近を、数人の人が歩いている。その場所の郊外的な雰囲気のわりに多いような気がするし、歩き方がぶっきらぼうだ。この人達も普通ではないのかもと感じさせる。
郊外の家に数人エキストラを歩かせるだけで、異様な雰囲気を演出してしまうすごさ。そしてそのコスパの良さに黒沢清のインディーズ精神を感じる。
黒沢清は、映画はそもそも不自然なんだから「自然さ」を演出する必要ないと思っているのではないだろうか。映画そのものの不自然さを楽しむのが黒沢映画の醍醐味ではないかと思う。
テーマは「愛」
映画全体の雰囲気としては、『寄生獣』の雰囲気を濃厚に感じるだろう。黒沢の過去作では『CURE』や『回路』を思わせる。主人公の松田龍平のキャラクターは『ニンゲン合格』の西島秀俊を思わせた。
本作のテーマの1つは「愛」だろうが、そんなに驚きはしない。その作風からは意外だが、黒沢作品全体の根底に流れているテーマは「愛」なのだ。『岸辺の旅』のように直接的な場合もあるが、ホラー作品もテーマは「愛」だったりする。
以上気になったことを書き留めておいたが、見どころはもっとある。ハリウッド映画のように見どころ満載の映画って感じだから、黒沢清を知らなくても楽しめると思う。おすすめです。
黒沢作品として本作が気になる方は、こちらの記事もご参考にどうぞ。作家黒沢清として本作を評しています。
『散歩する侵略者』の原作はこちら
『散歩する侵略者』の心理サスペンス的な感じが好きななら『CURE』をおすすめ。
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