LIFE DRIPPER

「くらしのしずく」-日々のくらしから抽出された発見やアイディア-をお届けします

創作

恋愛奇譚『この星の恋愛事情 ミチルの場合』

トイレに駆け込み、扉を閉めて思った。これじゃ嬉ションする犬だ。「でも仕方ないよ、ミチル」私はいつもそうするように自分に話しかける。「こんな幸せなこと信じられる? かっこよくて、身長が高くて、それでいてとびきりやさしい。しかも趣味も合う。 こ…

恋愛奇譚『ホットケーキで逢いましょう 』(短編)

彼女は変わっている。食べ物から声が聞こえるという。こんなパターン初めてだ。ぼくは笑顔で受け止めようと思うようにしている。しかし目には現れているようだ。彼女は、ぼくの怪訝な目つきを見逃さない。そして、いつもではない、ときどきだ、と彼女は自分…

創作落語『翌年の長屋の花見』

えぇ、お忙しい中、覗いていただき誠に御礼申し上げます。これもまた何かの縁でしょうから最後までお付き合いくださるとうれしいかぎりです。 で、まあなんでこんな前口上で始まっているかと申しますと、タイトルにあるとおり落語風の小説に一席お付き合い頂…

短編ナンセンス小説『ウラギリのメリクリにハラキリを』

リビングの時計の長針がカチッと鳴って短針に重なる。 12月24日から25日へ。 そのかすかな音が、つけっぱなしのテレビの音声をくぐり抜け耳に届く。心に悲しく響く。 この乾いた音を聞くことになるだろうと私は予期していたのだと思う。ただ受け止めようとし…

逆から語る昔話 桃太郎編

むかしむかし、あるところに鬼ヶ島という島がありました。 赤鬼と青鬼の兄弟が住んでいました。 兄の赤鬼は金棒を磨いていました。 弟の青鬼が言いました。 「赤にい、どうしたの? 金棒なんて磨いちゃって」 「アオ! お前こんな大事な日を忘れるやつがある…

スラップスティック・スプラッター『呪われた牙』

カタカタッ カタカタッ カタカタッ カタカタッ カタカタッ カタカタッ都心から郊外のベッドタウンへ私鉄が走る。空調が効いた車内。「まもなくぅー新沼ー新沼ー」椅子にのけぞって居眠りしている秦野に、そのアナウンスは届かなかった。ガタン 電車が停まっ…

スラップスティック小説『みんなボブヘア』

空前のボブヘアブームと言っても過言ではあるまい。いや、もはやルールと言うべきか。なにしろ、私以外みんなボブヘアなのだ。女だけではない。男も子どもも。老いも若きも。老若男女、ボブヘアなのだ。時の移り行きはここまで早いものなのか。うつ病で2ヶ…

ラクガキ小説『無気力のうた:なんにもしたくない病がやって来たイヤァ!イヤァ!イヤァ!』

なんにもしたくない。したくないもしたくない。エルディくんは またもや なんにもしたくない病発症中。前回は2014/04/21のことでした。3週間ぶりに なんにもしたくない病がやって来た 嫌ァ!嫌ァ!嫌ァ!なんにもしたくない。したくないもしたくない。なにもか…

掛け軸式小説『田舎娘の恋』

ときは十七世紀 。イングランドの片田舎 。りんご農家に若い娘がいた 。娘はその美貌で村中に知られていたが 、何せ奥手であったため 、数多の求婚を断っていた 。娘は家のりんご農家の仕事に精をだすばかり 。その熱心さは娘はりんごと結婚したと揶揄される…

スラップスティック小説『アナーキー・ソックス』

ボンゴレビアンコで死ぬ夢で目が覚めた。薄暗がり。我が家と勝手が違うことにしばし戸惑う。薄っぺらな布団と無数の体臭が混ざった腐ったピーナッツバターみたいな匂い。すぐに職場だと気付く。仮眠室での目覚めはいつもこんなだ。我が家の布団が恋しいわけ…

実験小説『さんすうの文章題』

【もんだい】つとむくんはお母さんにケーキのおつかいをたのまれました。つとむくんは1000円もって、670メートルはなれたケーキ屋さんにいきました。

創作落語『おっぱい谷』(古典落語「あたま山」の改作)

えぇ、お忙しい中、ブログを覗いていただき誠に御礼申し上げます。今回はいつもと趣向をかえまして、落語風にお送りしようかと思います。落語風ですよ。風です。あくまでもね。だから細かいことはつっこまないでくださいね、えぇ。温かい目でお願いします。…

実験小説『おれのうずうずをとめてくれ』

うずうず するうずうずしっぱなしだとまらない頭の中がうず巻いていらいらするうずうずがうず巻く いらいらうずく薬を飲もうとも あるのはすべて宇津救命丸誰かとめてくれうずうずいらいらうずいらうずらいらうずうず・・・なぜか食べ物はうずらのたまごとな…

ゆる小説『巻きこみ巻きこまれ』

エスカレーターに乗る上へ 上へしかし長い 長い 。気が遠 くなるほど長い終わりが見えてきたときには意 識はうすれ足先からエスカレーターに 巻き こ ま れ巻きこまれながら予感 する・・・後ろの人も その後ろの人も その家族も 家も 街も 国も 海も巻きこ…

超短編小説『鼻毛スイッチ』

俺は今、かつてないほどのすがすがしい気分に満たされている。これを特殊能力と言わずなんと言おう。心の大きな空白を埋める力を手に入れたのだ。いや、そんな小さな話ではおさまらない。俺が、この俺が世界を変えられるのだ。ことの顛末はこうだ。数時間前…