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映画『ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して』(アルノー・デプレシャン監督)──ピカソのキュビズム絵画のような

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デプレシャンの新作

フランスの映画監督アルノー・デプレシャンの新作です。
デプレシャン監督ってどのくらい知名度があるのかわからないけど、『そして僕は恋をする』とかが一番有名なのかな。

本作で言うと、主演のベニチオ・デル・トロ、そしてデプレシャン映画の常連でハリウッド映画にも出るようになったマチュー・アマルリックという名前をあげたほうが、一般にはひっかかりがいいかもしれない。

 

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ぼくはデプレシャンの作品は、日本で公開されているものはすべて見ているけれど、毎度毎度一筋縄ではいかない展開で、鑑賞後はかならず「んんん〜」と唸ってしまう。

本作もそう。

ストーリーは……

アメリカ、モンタナ州に暮らすアメリカ・インディアンのジミー(ベニチオ・デル・トロ)は、第二次世界大戦から帰還後、原因不明のさまざまな症状に悩まされカンザス州の軍病院に入院する。そこで精神分析医で人類学者でもあるフランス人のジョルジュ(マチュー・アマルリック)と出会う。ジョルジュとの対話を重ねるうちに、ジミーは自らの心の中に宿っている闇に触れることになる。そしてふたりの対話診療という言葉を通じた親交は、患者と医師という関係を超え、お互いにとって忘れられない時を刻んでいく……。(公式サイトより

デプレシャンってひねくれてるよなー

って思いました。
デル・トロ演じるネイティブ・インディアンの傷ついた心の再生の物語として描いてくれれば、たぶん単純にお涙頂戴の感動作品になっただろうに……その再生の過程が正直わかりづらい。
でも毎回だから、そんな「わかりやすさ」をそもそも期待していないので、まあいいです。

ただそのせいで、こうやって文章でデプレシャン作品の魅力を伝えるのがとても難しい。
それで本作を見て思ったこと。

デプレシャン映画ってピカソの絵画みたい

ピカソキュビズムの絵画です。
消失点がなく遠近法にしたがってない、対象の断片がキャンバスに並び組合っているあの絵です。
デプレシャン作品も、物語の遠近法にしたがっていない。だから筋がわかりづらい。本作も「心の再生」に焦点をあてれば、それを消失点にすれば、もっとすっきりしただろうに、そうなっていない。というかあえてそうしていないのだろう。

代わりにぼくの目と耳に飛び込んでくるのは、デル・トロのでっぷりとした少々だらしない巨体や、夢の幻想的な映像であったり、アマルリックの疲労感や特徴的なギョロ目であったり、対話療法という名の不躾で質問の数々や解釈、病人のうめき声、現代から見れば怪しい医療行為や医療器具、そしてアメリカの平原とネイティブ・アメリカンの文化…… これらの断片が単純な物語に回収されることなく、ピカソキュビズムの絵画のごとく、感傷的な遠近感なくスクリーン上で組み合わさっていく。 ピカソのごとく、対象を複数の視点から眺め、その断片を再構成していく。

デプレシャンの魅力ってこんなかなあと思います。やっかいだけど。 そうするとアマルリックが常連なのもうなずけるのです。
本作でもそうですが、デプレシャン作品のアマルリックって混乱している人物を演じています。これがぴったりなんです。アマルリックのギョロッとした目の動きが、人物の混乱・戸惑い・挙動不審を見事に表現していて。
つまり、その視線の混乱こそデプレシャン作品を特徴づけるものではないかと思います。

本作でも「アマルリックの目」は顕在です!

しかも極度の近視という設定で、いつも以上に存在感がありますから。

こうして考えてみると、デル・トロのでっぷりとした巨体の映像が、ピカソキュビズム手法で描かれた裸婦像にように思えてくるのは、たぶんぼくだけでしょう……。

 

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